CASE 03
TPLO法(Tibial Plateau Leveling Osteotomy、脛骨高平部水平化骨切り術)とは、脛骨(すねの骨)の一部を切り取り、角度の調整をしてから固定する手術のことです。ワンちゃんの前十字靱帯断裂(前十字靭帯損傷)治療に適応される手術で、膝関節の安定、術後の早期回復、関節炎の進行を遅らせることが期待できます。
ONE for Animalsでは、前十字靭帯断裂の手術のほとんどはこのTPLOにて行なっています。
膝関節は、骨(大腿骨、脛骨)、靭帯(十字靭帯、外側側副靭帯、内側側副靭帯、膝蓋靭帯)、軟骨(半月板)、関節包などで構成されています。何かしらの原因でこれらの組織がダメージを受けると、膝関節全体のバランスが崩れてしまいます。靭帯は加齢による変質をきたす組織のため、劣化が進んだ靭帯に対して過度な負荷が加わり続けることで、断裂することがあります。特に犬では、この劣化が前十字靭帯に生じやすく、容易に断裂します。そのことで、膝関節全体が不安定な状態となります。
膝関節の安定を図る手術には、脛骨の角度を調整することで力のかかり方を変化させる手術と、人工靭帯を使用して大腿骨と脛骨をくくりつける手術の2種類があります。
手術で骨の形状を変えることで、膝の負担を取る方法で、治療後は膝関節そのものが安定しやすいことがメリットです。なかでもTPLOは、代表的な手法として知られており、世界的に実施されている症例報告も多い手術です。
ONE for animalsでは、前十字靱帯断裂(前十字靭帯損傷)と診断したワンちゃんにはこのTPLOを積極的に提案、実施しています。
損傷した靭帯の代替として人工靭帯を使用することで、膝関節の安定化を目指す手術です。手術が煩雑でないことがメリットですが、使用する人工靭帯がゆるんだり破綻したりすると再手術が必要です。また、手術直後は膝関節の可動域が制限されます。
TPLOとは、世界的に著名なアメリカ人獣医師のBarclay SlocumとTheresa Devine Slocum夫妻が1993年に考案した手術です。それよりも前に実施されてきた手術は靭帯の補完や置換を目的としていたのに対して、このTPLOは膝関節にかかる力そのものにアプローチすることで安定を図るということもあり、非常に画期的な考え方と手法として世の中に迎え入れられました。
1993年の誕生以来、TPLOは当初大型犬の前十字靱帯断裂(前十字靭帯損傷)に応用されていましたが、その後徐々に小型犬やネコの治療でも行われるようになりました。現在ではTPLOは世界中で実施されている、最も治療成績のよい手術として広く知られるようになりました。
TPLOのメリットは、人工靭帯を用いる関節外法よりも術後の膝関節の安定が見込めることです。また、術後の回復が早く、膝関節機能回復に優れます。また術後の関節炎の進行が軽度になることや、半月板損傷の発生率低下も期待できます。
元々犬の膝関節では、脛骨の受け皿が後方へ傾いており、前十字靱帯が断裂すると、その傾斜によって、脛骨の位置が本来よりも前方に出るようになります。この前方への移動によって、体重をかけられなくなります。この傾きをなくすことで、脛骨の受け皿がずれなくなります。
脛骨の傾きをとるための手法として、脛骨の一部を専用の半円形の骨切り機器で切断し、円弧に沿って回転させます。回転後、骨切り部位を固定するために、専用に開発されたインプラントで固定します。
TPLOは、事前の準備から手術完了まで4ステップあります。
ワンちゃん(もしくはネコちゃん)が前十字靱帯断裂(前十字靭帯損傷)と診断されTPLOによる治療を選択した場合、まずX線画像撮影による、脛骨の傾斜 (TPA) を確認します。
TPAとは、脛骨の軸と、脛骨近位(脛骨のなかでも大腿骨と近い部分)の受け皿面の角度のことで、日本語では脛骨高平部角と呼ばれています。一般的に、ワンちゃんではTPAは25度前後ですが、TPLOでは脛骨が前方に滑らないようにするためには、TPAは6.5度が理想です。
TPAについて正確には、脛骨長軸線(顆間隆起と距骨滑車隆起の中心を結んだ線)と脛骨高平線(脛骨内側顆の頭側端から尾側端に沿って引いた線)がなす角度のことです。
皮膚から関節に、数ミリの穴を開けてから関節鏡を挿入し、関節鏡の先端に搭載した小型カメラで関節内部の状態を直接確認します。関節鏡を使用すると、肉眼で見るよりも前十字靱帯や関節組織などの状態をより鮮明に確認できます。損傷が認められる前十字靱帯や半月板は検査時点で処置可能です。関節鏡検査は、万一関節内に異常がなかった場合でも、関節包をメスで大きく切開しないため、検査後に関節の安定性が失われるリスクを回避できます。
TPLOは小型犬から大型犬まで様々な体格のワンちゃんに適応されます。そのため骨切りするサイズはワンちゃんごとに異なります。したがって事前に骨切り時に使用する半円形の電動ノコギリの刃と固定するためのプレートのサイズを選択します。
脛骨内側からメスを入れ、脛骨を露出し、脛骨の一部を円形に切り離します。その脛骨をTPAが6.5度になるように回転させます。
脛骨が調整後の角度を保持できるよう、事前に選んだインプラントを設置してネジで固定します。
術部が容易に裂開しないため、何層にも分けて切開した部分を縫合します。
角度調整後に固定した部分の骨が癒合するまで、2カ月ほどかかるとお考えください。ただし、ワンちゃんの年齢、骨の状態と術後の安静具合によって多少の差が生じます。 手術の傷の治りを良くするためにも、手術後は状態が安定するまでワンちゃんが暴れたり傷口を舐めたりしないようにしてください。
TPLO実施には、以下ご紹介する専用の器具が必要です。
TPLOで骨に穴を開けたり、切ったりする作業に使用します。必ずTPLO専用のパワーツールが必要になります。
脛骨近位を円形に切り出す際に使用する電動ノコギリの刃です。
骨同士をつなぎとめるために使用する金属製のプレートです。ワンちゃんの体格に応じて適したプレートを選択します。
前十字靱帯断裂による機能障害により、断裂した側の脚は筋肉量が落ちています。ワンちゃんは3足歩行での生活に順応しようとするため、術後に筋肉量と関節機能の回復が遅れる子がいます。そのため、手術後はリハビリテーションを早期に開始することも前十字靱帯断裂の治療では重要なポイントになります。
術後リハビリテーションには、陸上で行うもの以外にプールで実施する水中リハビリテーションもあります。近年ではリハビリテーションにも注力する動物病院が増えてきました。
検査や手術はもちろんですが、動物病院を選ぶ際には術後リハビリテーションもしっかり行える体制とノウハウを有していることをチェックするのも重要です。
ONE for animals では、リハビリテーションの考案と実施を専門に行う獣医師が在籍しています。アメリカのテネシー大学が考案するイヌ向けリハビリテーションプログラム(CCRP)を受講し、認定を受けた獣医師が、ワンちゃんの状態を考慮したリハビリテーションを実施しています。
TPLOは術後合併症が少ない手術ですが、稀に合併症を認めることがあります。
考えられるものとしては、感染症、膝蓋靱帯炎(膝蓋骨をつなぎ留める靭帯に生じる炎症)、脛骨粗面部の骨折、インプラントの破断、スクリューの緩み、骨の癒合が遅いことなどが挙げられます。
両脚とも前十字靱帯断裂が認められる場合、TPLOは1-2ヵ月空けて片脚ずつ実施することが推奨されていますが、年齢や歩行状況に応じて、両脚同時に実施する場合もあります。一般的に両脚同時の方が合併症率は上がります。
TPLOは世界中で実施されていますが、手術に対して深い知識を持ち合わせている獣医師の元で受けることをお勧めしています。TPLOは1993年に誕生した比較的新しい手術であることと、手術を担当する獣医師の経験値が手術時間と合併症発症率にも反映され、結果としてワンちゃんが負う身体的負担に影響を与えるからです。
TPLOの手術時間は約1時間です。特に、50症例以上の手術経験がある獣医師では手術時間が短縮傾向にあり、麻酔による負担の軽減が認められています。
Group OF ONE for Animals
院内にはCTを完備し、グループの各院と連携をとりながら治療を行います。関東圏の幅広い地域からご来院いただいております。
東京都港区芝2丁目29-12-1F
TEL:03-6453-9014
院長:中條 哲也
CTおよびMRI、リハビリ用プールを完備しています。千葉県をはじめ、福島県、茨城県、埼玉県、東京都からも多くご来院いただいております。
千葉県習志野市茜浜1-5-11
TEL:047-408-9014
院長:小林 聡
リハビリ専門の獣医師(CCRP保有)がセンター長を務める、プール付きのリハビリ特化型施設です。早期回復のサポートを行います。
東京都目黒区柿の木坂1-16-8
TEL:03-6459-5914
センター長:岸 陽子