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犬の前十字靭帯断裂(前十字靭帯損傷)

CASE 08

前十字靭帯断裂のまとめ

前十字靱帯断裂(前十字靭帯損傷)とは、膝関節にある前十字靭帯が何らかの原因でダメージを受けることにより、本来の機能を果たせていない状態です。
前十字靭帯は、大腿骨(太ももの骨)と脛骨(すねの骨)をつなぎとめるバンドのような役割を担っています。前十字靭帯の一部(もしくは全体)が切れてしまうと、大腿骨と脛骨のつなぎ目が不安定になるため、膝に力が入らなくなるのです。

前十字靱帯とは

靭帯とは、弾力性に富んだ紐のような組織のことです。膝関節には、十字靭帯、内側側副靭帯(膝関節の内側で大腿骨と脛骨をつなぐ靭帯)、外側側副靭帯(膝関節の外側で大腿骨と脛骨をつなぐ靭帯)、膝蓋靭帯と呼ばれる靭帯があります。

このうち十字靭帯は、膝を正面から見たときに手前に向かう靭帯が前十字靱帯、後方に向かう靭帯が後十字靭帯であり、それぞれ強力な力で大腿骨と脛骨をつないでいます。2本の靭帯が交差するように存在しているため、十字という名前がついています。
前十字靭帯は、大腿骨に対して脛骨が前方に出すぎないよう制御するはたらき、膝を内側へねじった際に脛骨が必要以上にねじれないよう制御するはたらき、膝関節を伸ばした際に必要以上に伸びすぎないようにするはたらきを担っています。

膝関節の構造

膝関節は、脛骨の上に大腿骨が乗っている構造ですが、両者に挟まれる位置に台座として半月板が存在します。半月板は軟骨組織で、歩いたり走ったりして膝の曲げ伸ばしをしたときに、骨同士が直接ぶつからないようクッションとしての機能を有しています。半月板は三日月状をしていて、内側半月板(膝を正面から見て内側に存在する半月板)と外側半月板(膝を正面から見て外側に存在する半月板)があります。十字靭帯は、この2枚の半月板が向かい合ってできたスペースの中にあり、大腿骨と脛骨をつなげています。内側側副靭帯と外側側副靭帯は、大腿骨と脛骨を側面からつないでいます。



膝関節は、周囲を関節包と呼ばれる組織で包まれています。関節包は、外張は神経が走っている線維性膜、内張は滑膜で作られています。滑膜は、関節内部を満たしている関節液を作り出し軟骨への栄養補給をすると同時に、関節液が関節包外に漏れ出ることがないようにしています。

前十字靱帯断裂(前十字靭帯損傷)

前十字靱帯断裂(前十字靭帯損傷)とは、大腿骨と脛骨をつなぎ留めている靭帯のうち前十字靱帯が何らかの原因によってダメージを受けてしまった状態です。前十字靱帯の一部もしくは全部が切れてしまうと脛骨の位置を制御できなくなり、大腿骨よりも前方に出てしまいます。そのことにより、膝関節全体のバランスが崩れて、さまざまなトラブルをきたすようになるのです。なお、靭帯の一部が切れた状態は部分断裂、全部が切れた状態は完全断裂と呼びます。



前十字靱帯断裂の発生には、靭帯の変性が大きく関与しています。そして靭帯は一度切れると再びつながることはないため、前十字靭帯断裂が自然治癒することはありません。

前十字靱帯断裂が生じると、反対側の脚も1〜2年以内に発症する可能性が高いです。実際に前十字靭帯断裂を起こしたワンちゃんを調べると、実は反対側の脚にも前十字靱帯断裂が認められるというケースも少なくありません。これは、前十字靱帯の変性が断裂に関与している事が多いからです。この変性とはいわゆる靭帯自体の老化・劣化です。



また、膝蓋骨(膝のお皿)が本来の位置よりも内側に外れてしまう内方脱臼を起こしていると、前十字靱帯に対してさらに負荷がかかることから、前十字靭帯断裂を発症するリスクが高まるといわれています。

前十字靭帯損傷を放置すると、前十字靱帯の損傷が重症化し断裂していくだけでなく、他の整形外科疾患を発症する原因にもなります。前十字靱帯には、大腿骨よりも脛骨が前に出過ぎないようストッパーとしての役割があります。前十字靭帯が損傷して本来の役割を果たせなくなると、大腿骨と脛骨の間で台座となっている半月板にかかる負担が増えてしまい、半月板が少しずつすり減っていきます。



半月板は骨同士が接触しないようにするいわばクッションで、内部には血管や神経が走っていることから、半月板が破れたりはがれたりするような傷が出来ると強い痛みを感じるようになるのです。



また、前十字靱帯の損傷が進むと、関節自体がぐらぐらと不安定な状態となり、その不安定な状態を補おうとして、関節周囲の骨組織が増殖を始め、骨棘(トゲトゲしている不要な骨)が作られるようになります。また不安定な状態が続くと関節軟骨に傷ができ、関節を取り囲んでいる滑膜にも炎症が生じ関節液が異常に作られるようになります(いわゆる水がたまる状態)。これらは関節炎と呼ばれる病的な変化です。すなわち、前十字靭帯損傷を放置すると半月板が痛み、膝関節に関節炎が生じるという事です。

症状

前十字靱帯断裂(前十字靭帯損傷)の症状は、前十字靭帯の損傷の程度、半月板の損傷の有無と状態、関節炎の有無と程度によって異なります。そのため、痛がり方や日常生活での違和感の程度は、ワンちゃんによって差があることをお知りおきください。

前十字靱帯断裂(前十字靭帯損傷)で見られる症状

・体を動かそうとしてから実際に動き出すまでに時間がかかる
・歩行時や小走りをしたときに、片脚を引きずったりかばったりするような動作が見られる
・後ろ脚を地面につかないよう浮かせている
・ケンケン歩きをする(3本脚でバランスを取りながら少し跳ねるようにして歩く)
・後ろ脚が痛いそぶりを見せる

前十字靭帯損傷の症状は、出現しては消失するのを繰り返すこともあります。しかし、一度損傷した靭帯は自然回復することはないことから、一見症状がなくても裏では靭帯へのダメージが蓄積され続け、疾患は刻々と進行していきます。

原因

前十字靱帯は、スズランテープ(ビニール紐)のように、細い繊維が何本も寄り集まってできた紐状の組織です。たくさんの繊維で構成されている前十字靱帯が損傷する原因としては、前十字靭帯そのものの変性と急性外傷が知られています。

前十字靱帯そのものの変性

前十字靱帯が変性し強度が徐々に低下すると、今までなら問題なく耐えられてた力を受け止めきれない状態になります。靭帯の強度が低下すると、立ったり座ったりなどの日常よくある動作でも靭帯が徐々に切れていくことにつながります。先ほどのスズランテープを例に出すと、スズランテープが少しずつ裂けてプチプチと切れていくのをイメージしていただくのが近いでしょう。

前十字靱帯が変性する原因で多いのは加齢です。加齢による靭帯の変性は、代表的な小型犬として知られるチワワから100kgを超えるような大型犬のセントバーナードまで、あらゆる犬種に出現します。なお、片方の脚で前十字靱帯断裂が生じるとやがて反対側の脚も発症するのは、こうした加齢による変性も関係していると考えられています。

急性外傷

交通事故のほか転倒やダッシュなどの急な動作によって、前十字靭帯に急激な負荷がかかったことでダメージを受けることがあります。ワンちゃんの場合では、ジャンプ、ダッシュ、ターン、転倒などの動作や、階段など段差から落ちた際の衝撃などにより、前十字靱帯がダメージを受けることが多く、前十字靱帯の一部のみが切れることもあれば、前十字靭帯全体がブツンと切れてしまうこともあります。

もともと加齢などによって前十字靱帯の変性が進んでいたところに、急性外傷が加わることで前十字靱帯断裂(前十字靭帯損傷)が生じるケースも多いです。

前十字靱帯断裂はヒトにもよく見られる関節疾患のひとつですが、ヒトの場合はアメリカンフットボールやラグビーなどコンタクトスポーツに多く、膝関節に過度な負荷がかかったことで発症することが多いです。同じ疾患でも、ワンちゃんとヒトでは発症する原因の割合には違いがあります。

実は前十字靱帯断裂(前十字靭帯損傷)だったことも

関節炎、半月板損傷、靭帯の部分断裂などが以前から疑われたワンちゃんに詳細な検査を実施したところ、実はすでに前十字靱帯が断裂していたことが判明するケースもあります。

検査および診断

前十字靱帯断裂が疑われる場合に実施する可能性がある検査は、複数あります。どの検査を実施するかは、ワンちゃんの状態を見て判断します。

前十字靱帯が完全に切れていると、膝関節には明らかにゆるみが生じています。受診時にすでにこの状態であればX線画像撮影を実施し、骨がずれていることを確認することで確定診断に至ります。関節のゆるみはまだ認められないものの前十字靭帯損傷の可能性が拭いきれない場合には、部分断裂や半月板損傷の有無と程度を確かめる目的で関節鏡検査を選択します。

触診

前十字靱帯断裂(前十字靭帯損傷)を起こしていると、脚の使い方に左右差が生じていることが多いです。そのため、ワンちゃんが立ったり歩いたりしているときの状態をまずは確認します。前十字靱帯には脛骨が大腿骨よりも前方に出ることのないよう抑制する働きがあることから、前十字靱帯断裂(前十字靭帯損傷)が疑われる側の脚の脛骨を前後に動かしたり、膝の曲げ伸ばしをしたりして異常の有無を確認します。

大腿骨と脛骨をつかんで前後に動かしたとき脛骨が前方にずれるような動きを示す場合、これはドローワーサインと呼ばれますが、前十字靭帯の大部分が切れている事を意味します。

また体重がかかった時のように足首を曲げたときに脛骨が大腿骨よりもガクッと前にずれる様子があるとき、これはスラストと呼ばれますが、この場合も前十字靭帯の大部分が切れている事を意味します。

靭帯の多くが残されている場合は関節がずれるような感触はない事が多いですが、典型的な状態としては膝関節を伸ばしきるときに痛みを訴えます。

屈伸時にクリック音(「コリッ」「パキパキ」などの音)がすることがありますが、このことは半月板の損傷を示している事が多いです。

発症してから時間が経った前十字靱帯断裂では、膝関節の腫れや後ろ脚の筋肉低下などを起こしていることもあるため、左右差を含めこうした異常の有無も一緒に確認します。

おすわりテスト

見た目にわかりやすい検査方法でご自宅でも異常を見つけやすいです。ワンちゃんがちゃんとおすわりできるか確かめます。
前十字靱帯損傷に伴い膝関節内に炎症が生じている場合、腫れや痛みで膝をまげきることが出来なくなり、ちゃんとしたおすわりができず、脚を外へ開くいわゆるお姉さん座りやあぐらをかいているような見た目の座り方をします。もともとおすわり姿勢が苦手な子もいますので、いつもはきれいにおすわりができるのに、変なすわり方をするようになった場合には要チェックです。

X線画像撮影

膝関節を構成する各組織と周辺の状態を確認します。膝関節のX線検査でわかるのは、大腿骨と脛骨の位置取りが正常か、膝蓋骨が脱臼していないか、骨の密度に異常がないか、骨棘が出来ていないか、関節周辺が腫れていないかなどで、前十字靱帯が損傷していると、このX線検査で確定診断に至ることもあります。

関節が腫れていないかを確認する際にファットパットサインをまず確認します。

ファットパットサインとは、膝関節内が炎症や関節液貯留、出血などで腫れた場合に関節の外にある脂肪を圧迫し押し出す現象です。脂肪はX線画像では黒っぽく見えます。一方で腫れた組織は白っぽく見えます。ファットパットサインは通常黒く見える脂肪部分が白い組織で押されているように見えます。

細胞診(関節液)検査

前十字靭帯断裂で膝関節がゆるんだ結果、関節内に関節液が溜まった状態となることがあります。関節の腫れや関節液貯留の原因としては犬では前十字靱帯断裂(前十字靭帯損傷)による事が多いのですが、まれにリウマチ様関節炎や腫瘍が見つかることもあります。したがって異常な関節液貯留が認められる場合には関節液そのものを調べることがあります。

細胞診(関節液)検査では、膝関節内に貯留している関節液を注射器で抜き出し、関節液の量、粘度、色味、液体内の細胞成分などを調べることで、関節炎のタイプを特定します。



①変性性関節炎

加齢、太り過ぎ、骨変形などさまざまな理由によって関節の軟骨や周囲組織が変性していく関節炎のタイプで前十字靭帯断裂の場合の関節炎はこのタイプに属します。 変性性関節疾患は病原菌が関与していないことから、関節液を調べても細菌を検出することはなく、また細菌を攻撃するための免疫細胞である好中球(白血球の一種)も出てきません。

②感染性関節炎

細菌、ウイルス、真菌(カビ)などの病原菌が、体に備わっている自己免疫機能をすり抜けて関節部位に侵入して悪さをすることで生じる関節炎です。
病原菌が体内に侵入するルートとしては、ケガや感染症を起こした部位から直接入るのと、血液などの流れに乗って他部位から届けられてくることが考えられます。
特に生じやすい細菌感染では関節内から膿(うみ)が出てきます。その際の主たる免疫細胞として好中球(白血球の一種)が多量に検出されます。

③リウマチ様関節炎

自己免疫疾患の一種である関節リウマチの症状として出現する関節炎です。生き物の体には、外界から侵入する細菌やウイルスといった病原菌を見つけ次第攻撃、退治する自己免疫機能が備わっています。本来なら自分の体にとって有害なものを敵とみなすのですが、何かしらの原因で本来なら守る対象である自分の体を攻撃してしまうことがあります。これが自己免疫疾患です。リウマチ様関節炎は関節が腫れ関節液が溜まる以外にも、軟骨や骨にも徐々に影響が出るようになります。このように自己免疫機能が発症に関係していることから、リウマチ様関節炎は免疫介在性関節炎と呼ばれ、多くは全身の関節に異常が生じます。
リウマチ様関節炎を発症すると、細菌感染同様に関節液中に好中球(白血球の一種)が増加します。

関節鏡検査

カメラで関節内部の状態を直接見て確認する検査です。ワンちゃんに全身麻酔をかけた後、関節の一部をメスで少し切り関節鏡(硬性内視鏡)を挿入してから、関節鏡の先端に取り付けた超小型カメラで前十字靱帯の損傷、膝関節の軟骨の摩耗、半月板の損傷などを観察します。

治療方法

前十字靱帯断裂(前十字靭帯損傷)の手術は、靭帯がない状態でも脛骨が前方にせり出さないようにする目的で実施します。残念ながら変性した靭帯をもとの状態に戻すことは現在のところできません。

前十字靱帯断裂(前十字靭帯損傷)の手術には、大腿骨が脛骨の上からずれないように脛骨の形自体を矯正する方法と人工靭帯を用いる方法があり、どちらもメリットとデメリットを持ち合わせています。

脛骨の形を矯正する手術のメリットは、手術によって膝関節そのものが安定しやすくなることと、世界中で実施されていることから手術症例も多く、術後経過の安定が証明されていることです。また、人工靭帯を使用する手術よりも術後の回復が早いといわれています。デメリットとしては、手術するには専用の骨矯正器具が必要になることから、人工靭帯を使用する手術よりも治療費が高額になる傾向があることです。

対して人工靭帯を用いる手術のメリットですが、専用の道具がほぼ必要ないことが挙げられます。デメリットは、手術しても膝関節が安定する前に人工靭帯が緩んだり切れたりすると、骨のずれが再発する恐れがあることです。



具体的な手術方法はワンちゃんの膝関節の状態などを考慮して選択しますが、ONE for animals ではTPLO法を積極的に提案、実施しています。関節炎などを発症している場合は関節炎に対して長期的なリハビリテーションが必要となることがありますが、前十字靱帯断裂(前十字靭帯損傷)そのものは手術すればその後の経過はよいです。

脛骨の角度を調整するために実施する手術

①TPLO法(脛骨高平部水平化骨切り術)

脛骨上部で十字靭帯とつながり大腿骨を乗せる台座部分である脛骨高平部を専用の骨切り器で円形に切断し回転することで大腿骨に対する高平部の角度を変えてインプラントで固定する手術です。英語ではTibial Plateau Leveling Osteotomy と表記し、頭文字からTPLO法と呼ばれています。









②TTA法(脛骨粗面転移術/進化術・前進術)

TPLO法と同様に脛骨を切断しますが、TTA法は膝蓋靭帯がくっついている脛骨粗面を切り離す手術です。脛骨と切り離した脛骨粗面の間隙に角度を維持できるようスペイサーと呼ばれるパーツを固定し、さらにその上からインプラントで固定します。英語ではTibial Tuberosity Advancemen と表記し、頭文字からTTA法と呼ばれています。



③CBLO法(回転中心に基づく脛骨高平部水平化骨切り術)

脛骨を横から円形に切断したのち、脚に体重をのせた際に脛骨が前方に出ようとする力を打ち消すよう脛骨の角度を調整して、インプラントで固定する手術です。骨の軸を矯正する方法で英語ではCORA Based Leveling Osteotomy と表記し、頭文字からCBLO法と呼ばれています。

④TTO法(三点脛骨骨切り術)

脛骨の上部の三箇所に骨切りを行い、小さく骨を切り出したのち、脛骨の角度を微調整してからインプラントで固定する手術です。英語ではTriple Tibial Osteotomy と表記し、頭文字からTTO法と呼ばれています。

人工靭帯を用いる手術

①Flo法

人工靭帯を膝関節の外側からかける手術です。靭帯は一度切れると元に戻らないため、脛骨と種子骨にナイロンなどの人工靭帯を通し膝関節全体に輪をかけるようにしてくくりつけます。小型犬や体重が比較的軽いワンちゃんに対して提案、実施することが多い手術です。英語では 開発者の名前からFloと表記しますが、Lateral suture(関節外(縫合)法)と呼ばれることもあります。



②タイトロープ法

大腿骨と脛骨にドリルで穴を開けタイトロープ(人工繊維)をとおし膝関節全体に輪をかけるようにしてくくりつけます。英語ではTight ropeと表記します。

③スーチャーアンカー法

膝関節で大腿骨の後ろにある種子骨の手前部分にスーチャーアンカーと呼ばれる糸付きのビスを埋め込んでから脛骨とつなぎあわせる手術です。

関節内法

膝関節内に靭帯を再建する手術のことです。関節内法では、ワンちゃんの筋肉(大腿筋膜)もしくは人工靭帯を使用するのが特徴で、有名な手法ではオーバーザトップ法(Over The Top)があります。この方法は先述の他の術式と比べて成績が安定しないため日本国内での実施例は少ないです。

術後リハビリテーション

前十字靱帯断裂による機能障害により、断裂した側の脚は筋肉量が落ちています。ワンちゃんは3足歩行での生活に順応しようとするため、体幹をひねりバランスを取ります。手術をしたあと、十分に使用可能な状態であるにもかかわらず、この3足歩行に慣れすぎている事で手術を行った足をなかなか使用しない子がいます。この状態ではそのままでいても、筋肉量と関節機能の回復は見込めません。程度に差はあるものの前十字靭帯断裂によって四肢のバランスが崩れている子は多いです。そのため、手術後はリハビリテーションを早期に開始することも前十字靱帯断裂(前十字靭帯損傷)の治療では重要なポイントになります。

術後リハビリテーションには、陸上で行うもの以外にプールで実施する水中リハビリテーションもあります。近年ではリハビリテーションにも注力する動物病院が増えてきました。
検査や手術はもちろんですが、動物病院を選ぶ際には術後リハビリテーションもしっかり行える体制とノウハウを有していることをチェックするのも重要です。

ONE for animalsでは、リハビリテーションの考案と実施を専門に行う獣医師が在籍しています。アメリカのテネシー大学が考案するイヌ向けリハビリテーションプログラム(CCRP)を受講し認定を受けた獣医師が、同じく在籍しているヒトの理学療法士と知識・経験を持ちよりワンちゃんの状態を考慮したリハビリテーションを実施しています。

再発

前十字靱帯断裂に対し現在行っている手術はナイロンによって関節の外で関節がずれないように固定する関節外法(関節外縫合法)と関節がずれないように骨矯正するTPLO法です。関節外法はナイロンが前十字靭帯の機能を代替している間に関節周囲組織が関節をずれないように支えるような組織に変化することを期待した手術方法です。したがって、この関節周囲組織の変化がうまく生じなければ、ナイロンがゆるむ、あるいは破綻した場合に再度関節のずれが生じます。そのため場合によっては再度固定が必要となる子がいます。一方でONE for animals グループがすすめるTPLO法では、骨を矯正することで膝関節全体の安定化をはかるため、実施後安定した状態から再度ずれが生じる事はありません。

手術で埋め込むインプラントについては、設置によって腫瘍が発生する危険性が高まるという意見が以前は見受けられましたが、近年では変わらないといわれるようになってきました。インプラントは基本的には一生涯入れ続けて問題はございません。インプラントを取り出すためには再度手術が必要となりますので、ワンちゃんの負担を考えると取り出す選択をしないことがほとんどです。ただし、インプラントに関わる問題の発生頻度は高くはありませんが、万一感染症や機能面での問題が生じた場合には取り出す場合もあります。



ワンちゃんにTPLO法の実施をご検討されている飼い主様は、動物病院での手術実績を確認されることをおすすめします。TPLO法自体が比較的新しい手術のため、手術実績数は動物病院によってかなり差があるためです。

ONE for animals グループでは、2022年8月時点で6,000件を超える手術実績があります。このうち、前十字靱帯断裂(前十字靭帯損傷)に関する手術を1,000件以上に実施しています。

ワンちゃんに前十字靱帯損傷が疑われる場合

「後ろ脚を上げて歩いている」「なんとなく歩き方がぎこちない」といったように、ワンちゃんの異変に気づけても、前十字靭帯損傷と飼い主様が判断することは難しいです。ワンちゃんの様子がいつもと違う場合には、なるべく早くご相談ください。
前十字靭帯損傷は関節炎など他の疾患や加齢で動きが悪いなどと間違えられてしまうことが多いです。そのため、治療を受けているものの症状が良くならない場合には、前十字靭帯損傷を視野に入れ早めにご相談いただくことをおすすめします。

また前十字靭帯損傷と診断された場合には、なるべく早く手術に踏み切っていただくのが良いです。前十字靭帯損傷は進行性の関節疾患です。発症から時間が経つと関節炎も進行し手術を行っても後遺症が強く残ってしまうおそれがあります。また、後ろ脚をかばうようになって筋肉量が落ちてしまうと、手術後のリハビリテーションがより長期化するおそれもあります。

ワンちゃんの前十字靭帯損傷でお悩みの飼い主さまへ

前十字靭帯損傷は、早期の段階で発見して手術を受けることができれば、後遺症がほとんど残らない状態まで回復可能な疾患です。ワンちゃんが前十字靭帯損傷と診断されたら、ワンちゃんのこれからの健康と生活を考えた治療をご検討ください。

横浜院以外のグループ動物病院

Group OF ONE for Animals

  • ONEどうぶつ整形外科センター東京

    ONE
    どうぶつ整形外科センター東京

    院内にはCTを完備し、グループの各院と連携をとりながら治療を行います。関東圏の幅広い地域からご来院いただいております。

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    TEL:03-6453-9014 
    院長:中條 哲也

  • ONE千葉どうぶつ整形外科センター

    ONE千葉
    どうぶつ整形外科センター

    CTおよびMRI、リハビリ用プールを完備しています。千葉県をはじめ、福島県、茨城県、埼玉県、東京都からも多くご来院いただいております。

    千葉県習志野市茜浜1-5-11

    TEL:047-408-9014 
    院長:小林 聡

  • ONE自由が丘どうぶつ整形外科・リハビリセンター

    ONE自由が丘
    どうぶつ整形外科・リハビリセンター

    リハビリ専門の獣医師(CCRP保有)がセンター長を務める、プール付きのリハビリ特化型施設です。早期回復のサポートを行います。

    東京都目黒区柿の木坂1-16-8

    TEL:03-6459-5914 
    センター長:岸 陽子

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